今の職を辞して、彼は沖縄に発つという。
彼とは特別に仲が良かったというわけではない。
携帯の番号だってメールのアドレスだって知らない。
せいぜい何度か飲みに行ったことがある程度だ。
しかし好感の持てる良い男だった。
精神的な逞しさ、骨格の太さを感じさせる男だった。(体は小さかったが
最後の別れ際、自分は彼に握手を求めた。
握り返された彼の掌から感じられる力強さ。
彼ならどこへいってもやっていけるのだろう。
そう感じた。
人生を生きる力の欠如を自認する自分にとって、彼のその力強さを大いに羨ましく思う。
人生が「さよなら」に溢れているなんてことは井伏鱒二の訳詞を思い返すまでもなく、この年まで生きているとさすがになんとなくは理解できる。
けれど友人も知己もさほど多くない自分は、なるべく些細な「さよなら」も克明に憶えておきたいものなのだ。
あまり日記めいたことを書くのは慎もうと思っていたのですが、まあたまには…ね。
こんな別れをいつか懐かしむ為に、文字にして記しておくのは見苦しい行為でもあるまい。